2010年10月13日

「セナvsプロスト」という本

 映画「アイルトン・セナ〜音速の彼方へ〜」を観て改めて三栄書房から出ている「セナvsプロスト」を読み返しているのですがなかなか興味深い本なのです。



 セナの最大のライバルだったプロストに2008年に行われたインタビュー、そして当時の関係者達への新たなインタビューという点がある物の、出てくる話としてはそんなに目新しい物ではありません。ただ、この本の優れているところは各エピソードが「点」として存在するのではなく、彼らのF3時代からさかのぼり、キャリアの終焉までその「点」をつなげて「線」することでセナ・プロストのレースへの考え方を丁寧に紐解こうとしている事です。この本からは当時の空気感が伝わってくるんですよ。

 93年にウィリアムズと契約できなかったアイルトン・セナは最後に残った選択肢として仕方なくマクラーレン・フォードと契約するのですが、この時交わした契約が「1GPごとに100万ドル」というものでした(当時のレートで1億円〜1億1千万円)。この本によると振込が確認されるまでセナは家から動こうとしなかったためにチーム代表のロン・デニスは常に100万ドルを用意するために金策に走り回っていたそうです。この場合、スポンサーや賞金も毎GPごとに振り込まれていれば問題なかったのでしょうが、「おそらく」こういうのは月単位やシーズンを区切って支払われる物でしょうから常に100万ドルのキャッシュを用意するのは会社の経営者として相当しんどかったのではないでしょうか。

 セナが亡くなった94年についても興味深い話がありまして、セナは引退したプロストに電話をし、すぐにF1に復帰するように促していたそうです。事実プロストもまだやる気は残っておりマクラーレン・プジョーをテストドライブしますが、戦闘力の乏しいマシンを時間を掛けて成長させる気力までは残っておらず結局断念する事になるのですが。ところがその後のセナからの電話は続き、ウィリアムズのコクピットに対する相談をしていたそうです。ちなみにプロストも93年にドライブした時に同じような不満を感じていたそうでその原因は92年にドライブしていたマンセルに合わせて作った物がそのまま引き継がれていたからなんだそうです。そういったやりとりがあったからこそサンマリノGPのフリー走行でプロストが解説を勤めているフランスのテレビ局向けに制作された走行しながらのコース解説にセナが「親愛なるアラン、君がいなくて寂しいよ。」という発言があったわけなんですね。

 この本はタイトル通りセナとプロストの事を重点的に書いているために二人の物語に関係してこない他のドライバーはほとんど出てきません(セナの親友だったティリー・ブーツェンもこの物語の中では重要ではないと判断されたのかカットされています)。ただ、セナの前日に亡くなったローランド・ラッツェンバーガーに関しては例外的に大きく扱われています。これは結果的にセナの影に隠れてしまった彼に対しての作者の供養なんでしょう。

 この本の唯一の欠点は2,200円という価格かなぁ(笑)。  
Posted by 天野"kevin"達也 at 00:05Comments(2)モータースポーツ